本記事は、下記note を転記したものです。 はじめての機関設計の考え方・覚え方(+指名委員会、監査等委員会)
2020年11月15日 07:00
https://note.com/hi_masayoshi/n/n96d93795ff72
1 機関設計のよくみる「あの図」
* 伊藤靖史ほか「会社法(第4版)」(有斐閣・2018年)134頁より
* 指名委員会等設置会社を便宜上「三委員会」と表記しています。
* 上記No04(会社法327条2項但書)を除く23種類では会計参与を任意に設置できますので、パターンは厳密には合計47通りです。
会社法を少し学ばれた方におかれては、基本書・教科書で上記図をみたことがあるかと思います。しかし、この図は、(もちろん僕もそうでしたが)最初は非常に無味乾燥にみえてしまい、意味がわかりにくいかもしれません。
↓ 解決策
それでは、このように考えてみるのはどうでしょうか。
上記図から、発展学習的な、
・指名委員会等設置会社(図では三委員会と表記)
・監査等委員会設置会社
を外して考えてみましょう。
すると、非公開かつ非大会社(グループA)では、No01〜No08の合計8種類の機関設計が可能なことがわかります。他方、公開かつ大会社(グループD)では、No22のわずか1種類の機関設計しかできないことがわかります。 このように、会社法は、非公開かつ非大会社(グループA)について、機関設計の自由を認めている反面,公開かつ大会社(グループD)には機関設計の自由を認めていないことがわかります(=強い規制を設けていることがわかります。文末脚注*1)。
2 なぜ、大会社かつ公開会社では規律が厳しいのか
次に、なぜ、大会社かつ公開会社では規律が厳しいのかを理解するには、大会社と非大会社、公開会社と非公開会社の区別を知る必要があります。
■1 大会社と非大会社
【条文】会社法・第2条(定義)
六 大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第四百三十五条第一項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が五億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。
大会社については、会社法上、上記のように定義されています。
長いので、今回はとりあえず簡略化して、
①貸借対照表の資本金が5億円以上
②貸借対照表の負債の部が200億円以上
のいずれかの会社が大会社にあたると考えていただければと思います。
資本金が多いということは、出資した株主が多いということ。
負債が多いということは、会社債権者(会社にお金を貸し付けている金融機関や会社の取引先)が多いということ。
このように、資本金が5億円以上または負債が200億円以上の会社では、利害関係人が非常に多くなります。このような企業で、ひとたび、粉飾決算が行われば一大事です。
そこで、会社法は、大会社と非大会社と区別して、大会社には、たとえば、会計監査人の設置を義務付けるなどしています(会社法328条)。下記図においても、大会社では、すべて会計監査人が設置されていますね。
(再掲)
■2 公開会社と非公開会社
【条文】会社法・第2条(定義)
五 公開会社 その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいう。
この定義を一見しても、わかりにくいかもしれません。
そこで、換言しますと、譲渡制限のある株式の有無によって、下記のように区別することができます。
① 譲渡制限のない株式のみの会社 → 公開会社
② どちらもある会社 → 公開会社
③ 譲渡制限のある株式のみの会社 → 非公開会社
着目するべきは、上記②です。
なぜ、上記②(譲渡制限のある株式と譲渡制限のない株式をどちらも発行している会社)が、公開会社に分類されるのでしょうか。
このような会社を、非公開会社に分類してはいけないのでしょうか。
株主Aが、自己の有する譲渡制限株式を、Bへ譲渡したいとします。 このとき、AがBに譲渡制限株式を譲渡するには、会社の承認が必要となります。会社の承認がなければ、AはBに譲渡できません(承認がない場合、最終的には、会社の指定した買受人または会社自身が買い取ってくれます。)。
譲渡制限株式を譲渡するときには、会社の承認が必要
このルールが、この公開会社と非公開会社の規律のポイントに思います。
下記の図をご覧ください。
P社【譲渡制限のない株式のみ】は、譲渡制限のない株式のみ発行しています。同社の株主は、株式を自由に譲渡することができます。
R社【譲渡制限のある株式のみ】は、譲渡制限のある株式のみを発行しています。同社の株主は、株式を自由に譲渡できず、譲渡するときには、会社の承認が必要です。そのため、会社の意図しない株主が出現する可能性は乏しいです。
それでは、真ん中のQ社【どちらもある】はどうでしょうか。
たしかに、譲渡制限のある株式がありますので、この部分はR社と同様です。 しかし、一部にでも譲渡制限のない株式がありますので、会社の関与外で、株式が転々流通して、新規株主が出現する可能性があります。そのため、規律としては、P社と同様の規律(=公開会社)に服せしめることがバランスのとれた制度設計です。
上記にみたとおり、上記P社とQ社が公開会社です。
このような場合、一般論として、株式が頻繁に交替し、株主が業務執行を十分に監督することができないといわれています。そこで、たとえば、会社法は、公開会社については、取締役の業務執行を監督するために、取締役会の設置を義務付けられているのです(会社法327条、なお同362条2項参照)。
■3 小括
以上のとおり、
①公開会社と非公開会社
②大会社と非大会社
との区別があります。機関設計の考え方としては、まず上記①②の区別を知り、冒頭の図をもう一度見てみることが重要かと思います。その上で、さらに細かな機関設計のルールを覚えていくといいのではないでしょうか。
続いて、ごくごく簡単に、大会社かつ公開会社で選択できる機関設計の3つの違い(No22監査役会設置会社、No23指名委員会等設置会社、No24監査等委員会設置会社)をみていきましょう。
なお、下記で順にみる、監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社の各図は、中東正文ほか「会社法(有斐閣ストゥディア)」(有斐閣・2015年)を参照の上、改変しています。図が分かりやすいとしたら、すべて同書のおかげです。同書は、コンパクトに会社法全体を学習できる書籍で、非常におすすめです。
3 監査役会設置会社(平成5・13年商法改正と関係)
【背景】
監査役会制度導入には、1989年に行われた米国との日米構造協議が背景にあります。米国側から、経営陣への監督制度の充実が要請された結果、①監査役の任期を伸ばしたり、②監査役会という組織制度を採用する等の改革がなされることになりました。
【制度のエッセンス】
① 監査役会における監査役は3人以上で、かつその半数は社外監査役である必要がある(会社法335条3項)。
② 常勤監査役の選定が必要である(会社法390条3項)
③ 監査役会いえども「独任制」である(後述の指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社とは異なる)。
④ 監査役会の監査範囲は取締役の業務執行の適法性監査に限られる。
* 適法性監査と妥当性監査の補足
ある判断を経営者が行おうとするときに、その行為が①適法か違法か、②妥当か不当かの2つの段階があり区別する必要があります。
たとえば、食品衛生法で許可されていない未指定添加物を混入した食品を販売するかどうかは前者の問題です(適法違法)。テーマパークの特定の施設の開業時期を延期するかどうかは後者の問題です(当不当)。
上記2つの段階のうち、適法性監査とは前者の問題(適法違法)、妥当性監査とは後者の問題です(当不当)。しかし、本当に、このような適法性監査と妥当性監査とを区別することに実益があるのかについては議論があります(田中亘「会社法<第2版>」(有斐閣・2018年)・293頁コラム4-62)。
<参照記事>
春、マリオの世界が広がります。USJの任天堂エリアは来春オープン
春、それはマリオワールドへの誘い。USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)にオープン予定の、任天堂のキャラクターと世界
4 指名委員会等設置会社(平成14年商法改正)
【背景】
当時、我が国の大企業には非常に多くの取締役がいました(数十人規模はざらにありました)。しかし、これでは、取締役会で実質的な議論をすることは困難です。そこで、①迅速な経営をしつつ、②指名・報酬・監査という重要な事項について社外取締役が過半数を占めるとすることで経営を監視する仕組みを採用しました(米国の制度を参照にしています)。
【制度のエッセンス】
① 取締役会が、指名委員会・報酬委員会・監査委員会のメンバー(会社法400条、401条)、執行役・代表執行役を選定解職する(会社法402条2項、420条1項2号)。
② 各委員会の過半数は、社外取締役の必要がある(会社法400条3項)。
③ 指名委員会は、取締役選任議案の内容を決定する(会社法404条1項)。
④ 報酬委員会は、執行役等(執行役・取締役・会計参与)の個別の報酬等の内容を決定する(会社法404条3項)
⑤ 監査委員会のメンバーは取締役であることから、監査範囲は取締役の業務執行の適法性監査のみならず、妥当性監査にも及ぶ(適法性監査と妥当性監査の区別の当否について、前掲田中・293頁コラム4-62参照)。
5 監査等委員会設置会社(平成26年改正)
【背景】
近時、社外取締役や社外監査役への期待は、ますます高まっています。しかし、指名委員会等設置会社(当時の呼称でいう委員会等設置会社)については、①取締役の指名(図2の赤枠)や②報酬の決定(図2の緑枠)を部外者である社外取締役に委ねることに抵抗があったといわれており、あまり浸透しませんでした(商事法務1975号4頁(岩原伸作解説))。そこで、監査役会設置会社と指名委員会等設置会社との中間的な体制として、監査等委員会設置会社が導入されました。
【制度のエッセンス】
① 監査等委員は取締役である(会社法399条の2第2項)。
② 監査等委員は3人以上で、かつ過半数が社外取締役である必要がある(会社法331条6項)。
③ 監査等委員である取締役と通常の取締役とは、別の議題として選任する必要がある(会社法329条2項)。
④ 監査等委員会は取締役の職務執行を監査する(399条の2第3項1号)。
⑤ 監査に加え、選任等への意見や報酬等への意見陳述権がある(図3の赤と緑枠。この監査を越えた権限があることが「監査等」の所以である)。
⑥ 監査等委員は取締役であることから、監査範囲は取締役の業務執行の適法性監査のみならず、妥当性監査にも及ぶ(適法性監査と妥当性監査の区別の当否について、前掲田中・293頁コラム4-62参照)。
6 近時の指名委員会・監査等委員会等の状況
■1 現在の状況(ファクトフルネス)
・監査役会設置会社(平成5年商法改正)
・指名委員会等設置会社(平成14年商法改正)
・監査等委員会設置会社(平成26年会社法改正)
それでは、公開会社かつ大会社(及び東証上場会社)での比率はどの程度でしょうか。
東証上場会社のうち、
・監査役会設置会社 2635社(73.3%)
・監査等委員会設置会社 888社(24.7%)
・指名委員会等設置会社 71社(2.0%)
という状況です(2018年7月13日時点基準。株式会社東京証券取引所「東証上場会社コーポレートガバナンス白書2019」・66頁(リンク先PDF))。
一番新しい仕組みである監査等委員会設置会社への移行が進んでいることがわかります(なお、田中亘「会社法<第2版>」(東京大学出版会・2018年)・305頁「コラム4-65 監査等委員会設置会社採用の要因」も参照)。
■2 2020年に指名委員会等設置会社に移行した例
指名委員会等設置会社の具体例については、下記にまとめられています。【参考】日本取締役協会(2020年8月3日時点)
上記■1のデータ上は、指名委員会等設置会社はあまり採用されていません。しかし、同制度を導入している有名企業として、たとえば、イオン株式会社、オリックス株式会社、野村ホールディングス株式会社、ソニー株式会社、東京電力株式会社などがあります。
また、今年になって、監査役会設置会社から指名委員会等設置会社となった企業あります。たとえば関西電力株式会社は、種々の事情から、よりガバナンスが強化される指名委員会等設置会社に移行しました。
<参考記事>
関西電力、指名委等設置会社へ 何が変わる?
■3 2020年に監査等委員会設置会社に移行した例
監査等委員会設置会社に移行した例は、多くあります。
たとえば、2020年度でいいますと、株式会社NTTドコモ、株式会社NTTデータは、ともに監査役会設置会社から、監査等委員会設置会社に移行しました。
<参考資料>
報道発表資料 : 監査等委員会設置会社への移行に関するお知らせ | お知らせ | NTTドコモ
たとえば、株式会社NTTドコモの議案を見てみましょう。
第2号議案として、定款一部変更の件(=監査等委員会設置会社への移行)が挙げられており、その提案理由は、下記のとおりです。
【出典】https://s.srdb.jp/9437/content-2-3.html
1. 変更の理由
取締役会における経営戦略議論を一層充実させるとともに、事業会社として経営の機動力をさらに向上させていく体制を整えるため、監査等委員会設置会社へ移行いたしたいと存じます。
これに伴い、監査等委員及び監査等委員会に関する規定の新設、監査役及び監査役会に関する規定の削除、重要な業務執行の決定の取締役への委任に関する規定の新設、並びにこれらの変更に伴う条数の変更などを行うものであります。
そして、監査等委員会設置会社では、①監査等委員でない取締役と、②監査等委員である取締役の選任と報酬を各議題として上程しなければなりませんので、もちろん同社では、同手続きが履践されています。
7 執筆者情報
STORIA法律事務所
弁護士 菱田昌義(hishida@storialaw.jp)
※ 執筆者個人の見解であり、所属事務所・所属大学等とは無関係です。
8 補遺・参考文献略語表
文末脚注*1
ところで、詳細は割愛しますが、平成18年より前は、
①小規模な企業で利用されてきた有限会社については有限会社法、
②資本金が原則1000万円必要だった株式会社については商法、
で、それぞれ規律されていました(旧商法下における最低資本金制度の免除については省略します。)。
上記図におけるグループAは、上記①の有限会社に該当する場合が多いといえます。上記図におけるグループBDは、上記②の旧商法下の株式会社に該当することが通常です。
しかし、平成18年の会社法制定により、上記①②はともに「会社法」という法律で規定されるに至りました。そのため、会社法には、上記①②の両方を見据えて規律が整備されています。
この状況に関して私が大好きなフレーズがあるのでご紹介しておきます。
【参考文献】柴田和史「類型別中小企業のための会社法」(三省堂・2012年)・はしがき
「資本金の額だけで考えるとき、資本金100万円の株式会社と資本金10億円の大規模な株式会社の比率は、メダカ(3cm)と鯨(30m)の比率に等しくなる。会社法を解説する書物は数多く出版されているが、そのほとんどは、大規模な株式会社(上の例の鯨)を中心に解説している。小規模な株式会社(上の例のメダカ)については、そのところどころで例外的に解説する程度である。」
会社法の判例や各条文を学ぶときには、それがメダカなのか・鯨なのかを意識することが、個人的には重要だと考えています。
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